【スーツ屋がほとんど言わない(知らない)スーツの生地についての雑学】
ここ数日、街中の移動では陰を選んで歩いております。
この夏も暑くなりそうですね。
冷房の効いたお部屋で、ファブリック(生地)の雑学でも聞いてくださいませ。
スーツの生地の種類って、普段のスーツ選びではあんまり考えることはないと思います。
「トロピカル」「ツイード」
など、よく聞く名前もありますが、それが素材の名前なのか、メーカーの商品名なのか、分かりづらいですよね。
今月は、「ちょっとだけ」知っていると、服選びに納得感の出る雑学的情報をお伝えしたいと思います。
ややこしい名前をできる限り羅列せずにお話を進めていこうと思いますが、
ややこしい名前をできる限り羅列せずにお話を進めていこうと思いますが、
少々マニアックな話もあります。適当に流し読みしてみてくださいね。
【スーツ屋がほとんど言わない(知らない)スーツの生地についての雑学】
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スーツの生地の種類
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ウールのスーツ;「糸」と生地の「織られ方」
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「風合い」とは?
こんな感じで、進めてまいります。
1.スーツの生地の種類
スーツ(ジャケット、パンツ、コート、シャツ)生地の素材=「糸」の種類は、
大きく五種類あります。生地の素材としての「糸」とは、スーツ生地に織られる繊維のことです。
お裁縫でボタン付けとか刺繍をする糸とは、ちょっと異なります。
スーツ生地の素材としての「糸」五種類は、次のものとなります;
① 毛
② 絹
③ 綿
④ 麻
⑤ 合成繊維
簡単に説明を加えますと…;
①毛
羊毛をウール、獣毛(羊以外の動物の毛)をヘアーと言いますが、わかりやすく「ウール」と総称しますね。
スーツ、ジャケット、パンツ、コートなどを仕立てるための生地となります。
カシミア、モヘア、ビクーニャ、アンゴラという名前を聞いたことのある方もいらっしゃると思います。
これらは山羊・兎など羊以外の動物の毛でして、これらを「獣毛」と言います。
(ビクーニャ)
(モヘア山羊)
② 絹
皆さんご存知の絹織物の絹です。お蚕さんの繭から生まれる糸ですね。
スーツには、ウールに混ぜて織られることが多いです。
とても繊細なので、絹100%でスーツ生地に使用されることは、ほとんどありません。
タキシードの襟(「拝絹はいけん」と呼びます)など限られた部分の使用となっていることが多いです。
③ 綿
綿花を原料とする繊維です。
春夏のスーツ、ジャケット、パンツ、ワイシャツに使用されます。
④麻
麻の茎から採られる繊維です。
通気性に優れており、夏のスーツ、ジャケット、パンツ、シャツに使用されます。
⑤合成繊維
石油を原料として作られた繊維です。
ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリウレタンといった種類があります。
スーツ生地は主に以上の5種類の素材(糸)を使用しています。
これらを単独ないしブレンドしてスーツ生地にします。
それぞれの素材の魅力を引き出し合い、マイナス面を補うためにブレンド(混紡)が行われます。
ブレンドで代表的なものは、以下のものです;
(1)毛のブレンド(ウールとヘアーのブレンド)
カシミア混、アンゴラ混とか言うアレです。
風合いや保温性を高めるなどの意図でブレンドされます。スーツ、ジャケット、パンツ、コート等に仕立てられます。
(カシミア混)
(2)毛と絹のブレンド
光沢や風合いを高めます。
スーツ、ジャケット、礼服等に仕立てられます。
(3)毛と植物繊維(綿・麻)のブレンド
清涼感を高め、シワを出にくくするなどの意図でブレンドされます(綿・麻など植物の繊維は、シワになりやすいため)。
春夏物のスーツ、ジャケット、パンツなどに仕立てられます。
(4)毛と植物繊維(綿・麻)と絹のブレンド
清涼感、シワ予防、更に風合いと光沢、色出しの美しさを高める意図でブレンドされます。
(3)同様、春夏物のスーツ、ジャケット、パンツなどに仕立てられます。
(5)ウールと合成繊維のブレンド
ストレッチ性、撥水性を高める意図でブレンドされます。
スーツ、ジャケット、パンツ、コート等に仕立てられます。
弊社でご用意している生地のお取り扱いの割合は概ね以下の様になります;
ウール(羊毛)100%の生地:75%
獣毛(カシミア、モヘア、ビクーニャ等)100%の生地 : 3%
ウールと獣毛ブレンドの生地 : 4%
ウールと絹ブレンドの生地 : 5%
ウールと植物繊維(綿・麻)ブレンドの生地 : 3%
ウールと植物繊維(綿・麻)、絹ブレンドの生地 : 3%
ウールと合成繊維ブレンドの生地 : 7%
2. ウールのスーツ;「糸」と生地の「織られ方」
1項でご紹介した五種類の糸は、どの様につくられ、生地として織られていくのでしょうか?
ここでは、弊社で取扱いの最も多い羊毛についてみてまいりたいと思います。
羊から刈り取った毛が、糸になっていくには…
梳毛と紡毛(そもうとぼうもう)
この二種類のどちらかの方法によって、毛の塊が一本の糸という原材料なります。
<写真提供:SCABAL>
とても大雑把に言ってしまうと;
梳毛(そもう)とは、一本の長い繊維をクシでとかして糸にすることです。
紡毛(ぼうもう)とは、短い繊維をより合わせて糸にすることを言います。
これらの糸を織って一枚の生地にします。
梳毛(そもう)糸を使って織られた生地を「梳毛織物(そもうおりもの)」
紡毛(ぼうもう)糸を使って織られた生地を「紡毛織物(ぼうもうおりもの)」と言います。
ご想像のとおり、一本の長い毛をとかした糸=梳毛(そもう)で織った生地の方が滑らかです。
撚り合わせた紡毛糸で織った生地は、毛羽立があるなどふんわりして温かみのあるものとなります。
梳毛(そもう)は、糸から生地になるまで15工程
選別され
↓
洗われ
↓
縦糸と横糸が整えられており上げられ
↓
煮たり、乾燥したりを繰り返す
↓
最終段階で
織物の表面を剪毛(枝毛を切るみたいな?)
起毛したのち圧(巨大なアイロン)をかけて光沢が出され
↓
検品
↓
完成品となります。
<写真提供:SCABAL>
紡毛(ぼうもう)は、7工程
梳毛(そもう)と同じく
選別され
↓
洗われます
↓
様々なサイズの毛が混ぜ合わされ(梳毛で落ちた短い毛も一緒にされます)
↓
繊維の束を作り
↓
決められた太さの糸に引き伸ばされ
↓
生地として織り上げられます。
3. 「風合い」とは?
風合いとは「手触り、肌触り、感触」という意味ではありますが…
糸や織物の成り立ちを考えると、思い切って字の通りに受け取ってみると面白いのでは?と考えております。
「風合い」 = 「風が合う」「風を合わせる」
どの様に「風が」合って、どんな感触を得るのか?
「風の合わさり方」は、糸の撚り(より)方で変わります。
左撚り(Z撚り) 右撚り(S撚り)
糸は数本を合わせて使用することが多いので、調和よく数本がより合わさる必要があります。
一本の糸の撚り(より)と数本を合わせる際の撚り(より)は、逆方向にかけられる場合と同方向にかけられる場合があります。
磁石に例えるとイメージしやすいかも知れません。
S極とN極を合わせるとくっつき、
S極同士、N極同士を合わせると反発します。
S極とN極を合わせるとくっつき、
S極同士、N極同士を合わせると反発します。
撚り(より)をかけた糸同士がくっつか、反発するかで、風合い(生地に吹き込む「風」)が変わるのだと思います。
生地の感触の表現によく聞かれる「ぬめり感」「シャリ感」は、まさにこれです。
やわらかくくっつくように織った生地(右撚りの糸と左撚りの糸を撚り合わせて織った生地)には「ぬめり感」を感じ、
強く反発するように織った生地(右撚り同士・左撚り同士の糸を練り合わせて織った生地)には「シャリ感」を感じます。
糸をどちら向きで撚り合わせるのか、
糸一本で織られていくのか、
数本を撚り合わせて織られていくのか、
まあ、ここは専門家だけが拘れば良い領域です。
しかし、お洋服の通気や手触りがこうした繊細な理由で生まれてくると思うと面白くなりませんか?
技術の歩みって、すごいな〜と思います。
複雑な撚りと織りの技巧を駆使した生地を、我々は日々纏って(まとって)います。
人間が裸体を包み始めた時代から積み重ねられて来た、
人間が裸体を包み始めた時代から積み重ねられて来た、
言わば技術の結晶を日々身に着けられることは、本当に稀有で有り難いことだと思います。
今回は、一般の方々があまり耳にされないスーツの生地の「糸のつくられ方」や「生地の風合い」が
どうやって生まれるのかという部分を、弊社の感覚でお話しさせて頂きました。
風合いは、触れてこそ味わえるものです。
今着ていらっしゃるお洋服に触れて、感じてみてください。
おついでがございましたら、サロンにおいでください。いろいろな生地を触ってご自身の手で「風合い」を味わってみてください。
サロンでは、月に1〜2回8名様限定のお茶会を開催しております。
サロンでは、月に1〜2回8名様限定のお茶会を開催しております。
毎回、2千m以上の高地の茶園で手摘みされたダージリンティーと美味しいお菓子をお楽しみ頂いています。