スーツの設計・歴史観から見る「スーツの着方と着こなし」

スーツの設計・歴史観から見る「スーツの着方と着こなし」

今年、弊社の地元練馬区はとても盛り上がっています。
としまえんの跡地にできた「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京‐メイキング・オブ・ハリー・ポッター」と、
 
 
 
NHKの朝ドラ「らんまん」。
沿線には、牧野富太郎博士の自宅跡地に開設された「牧野富太郎記念庭園」があります。
 
〈出典:牧野富太郎記念庭園パンフレット〉
 
弊社としても、とてもホットです。
ハリー・ポッターはサビルローの英国繋がり、らんまんは牧野博士の装い繋がりで、楽しくなっております。
 
今月は博士の装いにインスパイアされて、スーツの着方をおさらいしたいと思います。
 
〈出典:絵葉書〉
資料やお土産のグッズには、博士のスーツ姿の写真が多く残されています。
一般庶民でありながら、明治時代になっていち早く洋装を取り入れた一人であったと思います。
 
昭和の時期には、「注文紳士服」(今で言うフルオーダースーツ)は一着50万円ほどでした。
昭和40年の年次統計による平均年収440,7600円から考えると、スーツ一着が一年分の収入に相当します。
明治時代の相場は分かりませんが、当時は仕立屋が希少であったことを考えると更に高めの相場感だったことが推察されます。

植物採集の際には、その様な高額のスーツを必ず着用していたと聞きます。野山を歩き土をいじるのに、です。

「愛してやまない草花に会いに行くから」だったと伝えられています。

牧野博士にとってのスーツは、植物に対する敬意の現れでした。

最上の相手に会うには、最上の装いで臨む。
牧野博士のこの姿勢に応えるかのごとく、次々に新種の植物が発見されました。
 
弊社も同じ考えです。
 
スーツは;

お会いする相手の方、臨む場面への敬意の表明

そう言う、大きな世界観での自己表現であると考えています。

ここをふまえて、スーツの着方・着こなしをお伝えしてまいりたいと思います。

  1. ジャケットのボタンのかけ方

  2. ジャケットのVゾーン・後ろ姿の演出

  3. ポケットについて

  4. ワイシャツについて

  5. ネクタイについて

  6. パンツについて

 
  1. ジャケットのボタンのかけ方

スーツ姿で、最も大きな面積を占め、最も目を引くジャケットのフロント部分の見た目を左右するポイントです。

ボタンのかけ方にルールがあるのか〜と、堅苦しく感じられるかも知れませんが、スーツの設計上理にかなっているものでもあります。

シングルジャケット 一つボタン の場合
男性の一つボタンは、多くが礼服です。礼服であれば、当然のお約束として、きちんとボタンをかけましょう。カジュアルジャケットの場合も、ボタンをかけて綺麗なシルエットとなるようにデザインされているので、ボタンはかけて頂くと良いと思いますが、TPOに合わせた演出であれば「ボタンを外す」選択もあります。

臨機応変さも大切にして頂きたいと思います。

女性の場合も同様です。

〈写真提供SCABAL〉
 
一つボタン以外のシングルジャケットの場合
立っている時は、一番下のボタンを外します。
座ったら、全てのボタンを外します。
スーツは、立っている時に美しいシルエットとなるように設計されています。
座った時は、胸郭が開いてジャケットが窮屈になります。それに伴ってシワにもなりますので、ボタンは外しましょう。
ボタンをかける↔外すの所作を流れるように自然に出来ると、非常に美しいです。
 
〈写真提供SCABAL〉
 
三つ揃いの場合
ベストも一番下のボタンは外します。
ベストを着ている場合は、ジャケットのボタンは全て外しても大丈夫です。
ベストのボタンは、座っても外しません。
それだけに、ご自身の身体に気持ちよくフィットさせる必要があります。
 
〈写真提供SCABAL〉
 
 
女性の場合
女性の場合は、一番下のボタンを外すルールはありません。逆に、
 
「全てのボタンをかけよ」
 
と言う説もあるのですが、私はもっと自由で良いと考えます。
 
ジャケットに合わせるインナーやボトムによって、演出の仕方が変わるでしょうから。
品よく華やかで美しい演出を意図して、ボタンを全て外すことも大いにあると思います。
 
〈写真提供SCABAL〉
 
 
ダブルジャケットの場合
四つボタン・六つボタンがあり、
それぞれ一番上の二つのボタンが飾りのものと、実際にかけられるものがあります。
どのタイプも、一番上のボタンをかけることをお勧めします。
綺麗で好感度の高い着こなしを演出できます。
 
 
〈写真提供SCABAL〉
 
一番下のボタンだけをかける上級者もいらっしゃいますが、現役世代には「一番上」をお勧めします。
一番下のボタンだけかけると…これはあくまでも個人的な印象ではありますが、
「大物感」と同時に「リタイア感」も出てくると思います。
 
 

2.ジャケットのVゾーン・後ろ姿の演出

〈写真提供SCABAL〉
 
ジャケットの襟をフィットさせる
標準体型の方は、この部分のフィット感を普段あまり気にされることはないかも知れません。
筋トレ、ウェイトトレーニングをされている方やアスリートの方には、お悩みの方が多い箇所となります。
前項でお伝えした「”第一ボタンをかける”ことが出来ない」と言うお悩みをしばしばお聞きします。
大胸筋や三角筋等を考慮せずにお仕立すると、その様な問題が生じます。
いかり肩・なで肩と言った骨格、猫背・鳩胸と言った姿勢等も考慮した採寸・お仕立も大切なポイントです。
襟の後ろ、第7頚椎の下あたりに「ツキ」と呼ばれる大きなたるみが出来てしまったり、
着ていて不快感や疲れを感じることがあり、後ろ姿の美しさにも影響します。
 
Vゾーンが綺麗にフィットすれば、後ろ姿もピッタリとフィットします。
 
 
 
ジャケットのゆとり
スーツのジャケットは、ここ数年ナチュラルなゆとりが美しいとされています。
 
目安は;
 
手の平の厚み
 
です。
この程度のゆとりが確保出来ると、内ポケットに札入れや名刺入れを入れてもシルエットに響きません。
 
 
 

3.ポケットについて

外ポケットには、モノを入れない
胸ポケットにチーフを入れる程度でおさめてください。
パンツのポケットも同様です。ピスポケット(お尻のポケット)にハンカチを入れる程度でお願いいたします。
 
胸ポケットにスマホ、腰ポケットに小銭入れ、ピスポケットに長財布
等は、くれぐれもお避けください。
 
シルエットが崩れるだけでなく、重みでポケットが変形し、スーツの劣化を加速させてしまいます。
 
ポケットのフラップ(蓋)
ポケットには何もいれないで
と言っておきながら、なのですが😁
 
ポケットのフラップ(蓋)は、ポケットの中に塵や埃を入れないためにつけられています。
 
細かい所作になりますが、ポケットのフラップ(蓋)は;
 
屋外では外に出し
室内では中にしまって
 
ください。
オーダースーツですと、フラップ(蓋)が極めてスムーズにポケットの中にしまえるようにつくられています。
 
  
 
 

4.ワイシャツについて

ワイシャツは、元々はスーツの「下着」でした。
スーツの傷みを予防するためのアイテムですので、
 
長袖
襟高
丈長
 
です。
昔は下着のパンツも兼ねていました(U字型の裾で前とお尻を包む)。
 
小さい頃職人さんからこの話を聞いた時は、オジサンの下ネタかと思っていましたが、本当でした。
びっくりしますよね😁
 
ワイシャツに関するお約束ごとは、以下の四つです;
・襟の寸法を合わせる(キツすぎると痛いですし、緩すぎるとだらしなく見えてネクタイも上手く締まりません)。
・襟はスーツの上に出さない(あくまで下着なので)。
こちらと少々矛盾しますが、
袖はスーツから出るようにします。
↓↓↓
・カフスはスーツの袖より長くする(ジャケットの袖口を摩擦等から守るため、1.5cmほど出る長さにする)。
・ビジネスシーン、特にフォーマルな場では、ボタンダウンは厳禁。
〈写真提供SCABAL〉
 
 

5.ネクタイについて

ディンプル
ネクタイの起源は、17世紀フランス。
30年戦争で組織されたクロアチアの兵士が妻子や恋人から御守りとして贈られた布を首に巻いていたのが始まりだそうです。
ルイ14世が魅了されたと言うのですから、華やかさが際立っていたのではないでしょうか?
 
この起源に、ネクタイはディンプルを作るとエレガントだと言う理由かがある様に思います。
ディンプルとは「えくぼ」  えくぼを作ると、こんな感じに立体的になります。
オシャレで素敵です。
↓↓↓
 
〈写真提供SCABAL〉
 
 
でも、ディンプルをつくることにこだわらなくても良いよねーと、私どもも最近考えております。
ネクタイの幅に合わせて、キレイに締めて頂ければと思います。
ノット(結び目)の下部分を、キュッとさせるとディンプルなしでも立体感が出ます。
 
〈写真提供SCABAL〉
 
 
ネクタイの長さ
ネクタイは、ベルトのバックルが半分隠れるくらいの長さでお願いいたします😉
何度かお話しているかと思うのですが、長すぎても短すぎても
 
お子さまの貸衣装
 
の様な印象になってしまいます。
 
長すぎる・短すぎるどちらの場合も、小剣(ネクタイの細い方)で調節してください。
 
小剣が大剣より長くなってしまい、はみ出てしまう時は、小剣をズボンにしまってください😊
 
汚れ
注意して頂きたいのは、ネクタイの汚れです。
 
食べ物のシミ
汗ジミ
 
等、気がつかないうちについています。
 
移動中の乗り物で寝落ちして、ノット(結び目)をアゴの皮脂で汚してしまったりすることもあります。
ネクタイも、時々クリーニングしてくださいね。
 
ネクタイの注意点をまとめると、以下の3点です;
・ディンプルは適宜
・長さはベルトのバックルの半分
・汚れに注意
 
 

6.パンツについて

「お洒落は足元から」と言われるとおり、
足元でせっかくのお洒落を台無しにしてしまうことがあります。
5項までをクリアしても、土台から崩れてしまいます。
 
足元としては、「靴」「パンツ」「靴下」が考えられます。
靴下については、以前のブログをお読み頂けましたら幸いです。
 
靴に関しては、別の機会を設けたいと思います。
 
こちらではスーツの着方・着こなしとして、パンツについてお伝えしたいと思います。
パンツは、ジャケットに匹敵する面積を占めています。
 
センターラインとシワ
自分の視界に入らなくなることが多いので、盲点になりやすいです。
ヘアスタイル、お顔、上半身をキメても
 
パンツがヨレヨレ
パンツがパツパツ
パンツがダボダボ
 
だと、台無しになってしまうのです。
 
回避のポイントは、二点あると思っています。
・センター線をピシッとさせる
・丈を適正にする
 
パンツのセンター線をピシッとさせるには、
着用後軽くブラッシングをするなどして、センター線で平畳みした上で専用ハンガーに逆さ吊りにします。
その際、ベルトを外し、ポケットの中をカラにするのを忘れないでくださいね。
パンツ自体の重みでシワを伸ばし、センター線をピシッとさせることが出来ます。
 
すっきりシワのない綺麗なセンター線の入ったパンツは、清潔感が一気に上がります。
 
パンツの丈
パンツの丈は、トレンドのデザインに限らず伝統的なものもある程度流行に左右されるものです。
現時点で好感度の高い(適正な)ビジネススーツの場合のズボン丈は、ハーフクッションからワンクッションの長さです。
 
〈写真提供SCABAL〉
 
 
 
以上が私どもの考えるスーツの着方・着こなしです。
基本を抑えたら、自由にスーツスタイルを楽しんで頂きたいと思います。
 
スーツは文化的な背景をもつ伝統的な装いです。
堅苦しく感じるルールもありますが、先人の思いのつまった起源や成立ち、機能を知れば納得のいくものだと思います。
 
こうした背景をお楽しみ頂けましたら、とても嬉しいです。
これからも、スーツの良さをちょっと違った視点からお伝えして参りたいと思います。
 
来月、SCABAL社の担当者さんをお呼びして、希少なアーカイブ生地をご覧頂くお茶会を行います。
残席僅かとなりましたが、ご興味のある方は是非お問い合わせください。
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