【スーツ屋がほとんど言わない(知らない)スーツの生地についての雑学】第二弾

【スーツ屋がほとんど言わない(知らない)スーツの生地についての雑学】第二弾

異常気象が続いています。皆様お変わりございませんか?
ローマ時代に季節が2か月くらいズレた(早まった)ことがあったらしいという話を聞いたことがあるのですが、今年の地球規模の異常は「ズレる」どころの話ではありませんね。                                                                 
被害に遭われている地域の皆様のご無事をお祈りするばかりです。

 

先月は、普段あまり触れることはないけれど「ちょっとだけ」知っていると、服選びに納得感の出る雑学について、以下の3つのポイントをお話しさせて頂きました。


スーツの生地の種類
ウールのスーツ;「糸」と生地の「織られ方」
「風合い」とは?         

ワタクシ事ではございますが、幼少期に住み込みの仕立て職人さんと寝食を共に過ごしたことで、
知らず知らずのうちに「素材バカ」になっており…
素材のこととなると、どんどん沼にはまってしまいます。
 
先代の父は、嗅覚で生地の真贋を判断できることを誇らしげに語っていました。
昭和期だったので、生地の買付にも色々あったのだと思います。
その様な動物的感性には遠く及ばないものの、3〜4歳の頃から工房で紳士服地や糸にまみれて遊んでいたことで、私も素材感を感触で記憶しています。


さて、今月は…

スーツ屋さんで皆さまが時々目にされて、「何かな?」と感じたり、「詳しくはわからないけど…」と思っていらっしゃるであろう


目付(グラム)

番手

「スーパー〇〇」


などについてお話ししてまいりたいと思います。

沼にハマりすぎないよう、専門用語を極力避けてお話しいたしますね。
もしもマニアックな話になりましたら、今回も適宜読み流してくださいませ。
 
1.  「目付」とは
2.  「番手」について
3.  スーパー〇〇とは
4.  ウール(羊毛)の優秀性
5.  ダイヤモンド・チップ

 

 

1. 「目付」とは

目付と聞くとつい時代劇の「大目付」を想像してしまいますが、もちろんそれとは違います。

生地素材を判断する材料の一つである生地の「重さ」です。
日本の様に季節が明確な地域では、お客様にとっても有用な判断基準になります。

 

 

赤丸の部分が目付です。

生地1mあたりの重さを示しています。
スーツ生地の多くが生地幅150cmですので、150cm × 1mの重さを示しています。
一部のメーカーで1m × 1mの表示をしている場合もあります。
 
デニムの場合は、現在でも「ヤード・ポンド法」で表記されていて、〇〇オンスという言葉が使われています。
ジーンズなどで目にされていると思います。
 

          

 

では、季節によってどんな重さなら良いのだろう?
という疑問が湧いてくると思います。

おおむねこの様な基準となります。

春夏もの(春夏秋の3シーズン)220g〜270g
盛夏もの220g〜240g
秋冬もの(秋冬春の3シーズン)260g〜
オールシーズン250g〜270g
コート280g〜

 

《こぼれ話》

先ほど、先代が嗅覚で生地の真贋を判断していたとお書きしました。
かつては、この様な感覚情報(手触りや風合い)から服づくりのイメージをすることが大切にされていた様に思います。
「目付」も、その際の道標(みちしるべ)となっていたと聞きます。

現在では、生地も工業製品的に扱われる様になったと言われています。
輸入や買付等の「取引」にクレームの起きない基準が必要となり、平面強度・摩擦に対する耐性・染色の堅牢性など多様な基準があるそうです。

日本の基準は世界一と言われていますので、お客様にとっては、安心して生地選びをして頂けるというメリットがあります。

そして、もう一つ良いことがあります。

カシミヤなど高価な材質の混紡の場合は、混率を正確に表示しなければなりません。
ところが、試験書作成にコストがかかったり、手続きが煩雑だったりということがあって、
5〜10%程度のカシミヤ混の素材は、「ウール100%」表示にしてしまうことが多いのだそうです。と言うことで、ウール100%のつもりが実はカシミヤ混だったという嬉しいこともあります。
 
 

2.  「番手」について

「番手」とは糸の太さを表す言葉ですが、「番手」についてはあまり追求しないでおこうと思います。ややこし過ぎるからです(笑)。
理由は、毛・綿・麻 それぞれに基準が違い、メートル法、ヤード・ポンド法での表示も違うからです。

パリ万博(1867年)以降、イギリス・アメリカ以外の国ではおおむねメートル法が施行されていますが、基準となる重さあたりの長さが素材によって違うので「◯番手なら細い」と一概に言うことが出来ません。

以下3点のみ、押さえておかれると判断基準になろうかと思います。

・一定の重さあたり、どれくらい伸びるかで「番手の数字」が決められている。

・数字が大きいほど、細い。

・スーツ生地に多いのは、大体60〜80番手。

 

ちなみに、最近では生地に「番手」が表示されることが少なくなりました。

ご参考までに…
スーツ生地(毛)の番手の基準は;

【1000gの羊毛を1000mまで伸ばした時の糸の太さを1番手とする】

と言うことだそうです。伸びるにも程がある!と思ってしまうほどです。
1000m!!!です!80番手と言ったら、80倍細い(伸びる)と言うことになります。

なんという繊細なテクノロジーなのでしょう。驚きしかありません。

 

3.  スーパー〇〇とは

番手とよく間違われるのが、「スーパー〇〇」です。
番手が糸の太さを表す数字だったのに対し、スーパー〇〇は繊維の太さを表しています。
番手よりも更にミクロの世界です(実際には「μミクロン=1/1000ミリ」)。

 

「スーパー〇〇」の表示は2002年に標準化されたものですので、比較的最近のことです。

従来は、メリノ種の羊毛のランクは「ファイン・ウール」「スーパー・ファイン・ウール」「エクストラ・ファイン・ウール」と言う具合に言葉で示されていました。

なんだか、オリーブオイルや日本酒みたいですね。
言葉の表現では、明確に理解(比較)しづらいと言うことで、IWTO(国際羊毛繊維機構)とザ・ウールマーク・カンパニーが数値化された統一表示の合意をして適用されることとなりました。

 

「番手」と同じく、

・数字が大きいほど繊維が細い


と、把握してください。

ご参考まで;18.5ミクロンの繊維を「スーパー100’s」として、0.5ミクロンずつ細くなる毎にスーパー表示が10ずつ増えます。
 
18.5μ スーパー100’s
18μ スーパー110’s
17.5μ スーパー120’s
17μ スーパー130’s
16.5μ スーパー140’s

 

と言う具合です。

4月のお茶会でご覧頂いたSCABALのアーカイブ生地スーパー250’sは、11μの細さと言うことになります。全く想像できない細さです。
1μは1000分の1ミリで、髪の毛の100分の1です。
スーパー250’sは、髪の毛の約10分の1になります。これでも想像できませんね。
 
舌を巻くばかりです。

ここで、更にスーツ生地の素晴らしさに分け入っていきたいと思います。

 

4.  ウール(羊毛)の優秀性

スーツ地の中心である羊毛(ウール)について見てまいりたいと思います。
羊毛(ウール)の素晴らしさは、知れば知るほど感動します。この感動が伝わることを祈りつつ、ご説明を進めてまいります。
 
羊毛(ウール)の特徴・優秀性を、大きく5つの観点からお伝えしてまいりたいと思います。
 

《1》縮れている

羊の毛は縮れています。この縮れが良い性質となって快適さを保ってくれます。
 

<写真提供:SCABAL>

・保温性

縮れ部分に空気を含みますので、構造的に暖かさを保てます。

・サラフワ感

縮れにより皮膚との接触面積が小さくなるためため、生地が面で肌にペタッと吸着しません。

サラッとふんわりした着用感になります。

・吸湿性と防水性

羊毛は、羊の生体を外的環境変化から守っています。雨が降っても、酷寒でも、酷暑でも羊の体温を一定に保つために、湿気を吸収し水を弾きます。

 

<写真提供:SCABAL>

 

衣服としては、暖かい・ムレない・涼感がある・冷えを防ぐ・撥水するなどの利点があります。

 

《2》よく伸びて、元に戻る

・弾力性と復元性

「番手」の項でお話ししたとおり、羊毛繊維は驚くほど伸びます。

たった一本の羊毛繊維でも壊れることなく30%以上も引き伸ばせるそうです。しかも、伸ばすのを止めるとすぐに元に戻り始め、しばらくすると完全に元の長さに戻ります。

この性質は、糸になっても、織物になっても変わりません。
こうした性質を知った先人達が、「シワにならず型崩れしにくい」「ハリがある」など“衣服に最適な素材”として古くから活用してきたのだと思います。

 

《3》燃え広がらない、溶けない

・防炎性

羊毛(ウール)は直接火をつけると燃えますが、火を離すと繊維の端が炭化する (焦げる) だけで燃え広がりません。水分含有率・窒素含有率が高いからだそうです。

燃焼しても溶けませんし有毒ガスの発生がありませんので、皮膚や呼吸器を火傷から守ります。

 

《4》よく染まり色落ちしにくい

・染色性

羊毛(ウール)はどの染料とも相性がよい(=色がよく馴染んで色落ちしにくい)繊維と言われています。これは、羊毛(ウール)の成分が19種類ものアミノ酸から成るタンパク質であることが要因だそうです。相性の選択肢が沢山あるから…と言うことです。

 

《5》汚れにくい

・防汚作用・自浄作用

羊毛(ウール)には、自浄作用があります。

元々生き物ですから、汚れを落としていく自然の作用が備わっています。
スーツも少々の汚れは、ブラッシングをする、風通しの良い場所でハンガーに吊るすなどすることで、汚れやニオイを軽減させることができます。

 

大きく5つの特徴をお伝えしましたが、知るほどに

「人類は、羊毛と出会って悠久の進化の歴史の中で生き残って来られたのだ」
とさえ、思ってしまいます。

この特徴を技術・芸術として昇華させたことが、素晴らしい叡智だと思います。

 

5.  ダイヤモンド・チップ

SCABAL社が取り組んできた新たな叡智について、ご紹介したいと思います。
羊毛・シルクという生物からの恩恵と、鉱石という無生物を融合させた技術です。
 

SCABAL社(本社ベルギー)は、長年の研究・開発を経て、2001年にダイヤモンドが入った最初の生地、”Diamond Chip”を発表しました。

顕微鏡単位にまで細片にされたダイヤモンドを、梳いた直後の原毛に広げ、光り輝く糸に紡ぎ、生地に織り上げるという技術を確立しました。その生地は光沢と同時に、心地よい手触り、仕立てた時のフィット感に秀でています。

プリントや接着ではなく、「紡績」技術です。

 

【SCABAL DIAMOND CHIP】
ウール(スーパー150’s) 80%
シルク20%
ダイヤモンドチップシングル上下一着あたり4カラット
Made in England

 


以下は、新コレクションのダイジェストとなります。

 

接写
 
 
接写
 
 
接写
 
 
接写
 

 

接写の写真は肉眼では見えない微細な写真ですが、デザインと紡績・織りの技巧がいかに秀逸かが感じ取れると思います。

 


9月には、「DIAMOND CHIP」今期コレクション26種類を【黄金の茶会】にてご覧いただける様、お手配しております。
どうぞ、お楽しみに!

【黄金の茶会】

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